日本のデザインアーカイブ実態調査

DESIGN ARCHIVE

University, Museum & Organization

多摩美術大学アートアーカイヴセンター

 

インタビュー:2020年8月24日 13:00〜15:00
取材場所:多摩美術大学アートアーカイヴセンター 4階
取材先:米山建壱さん(アートアーカイヴセンター事務室長)、田川莉那さん(アートアーカイヴセンター事務室)、
加藤勝也さん(多摩美術大学 准教授)、村松丈彦さん(グラフィックデザイナー)
インタビュアー:関康子、涌井彰子
ライティング:涌井彰子

Description

概要

多摩美術大学アートアーカイヴセンター(以下、AAC)は、2018年、多摩美術大学(以下、多摩美)の八王子キャンパス内にある複合施設「アートテーク」内に設立されたアーカイブ機関である。4階・5階には、7室のプロジェクトルームと大小の収蔵庫、調査スペースが設置され、調査研究の成果物や創作物は、1〜2階のギャラリーで展示公開できるようになっている。
AAC創設の目的は、大学が長年にわたり蓄積した作品でも書籍でもないさまざまな美術・デザインに関する資料体を閲覧可能にし、生きた教材として学生の制作と研究に役立てること。そして、その研究成果を国内外に発信し、アートとデザインの研究・教育の拠点として機能することである。現在、研究が進められている主な分野は、安齊重男の写真資料を中心とした「もの派アーカイヴ」、竹尾ポスターコレクションやDNPポスターアーカイヴ(永井一正・田中一光・福田繁雄)、サイトウマコト、佐藤晃一、勝見勝を中心とした「多摩美ポスターアーカイヴ」、三上晴子の作品資料や映像記録を中心とした「メディアアートアーカイヴ」など。ほかにも、瀧口修造文庫、北園克衛文庫、加山又造、横山操などの資料体が収蔵されており、その内容は、手稿、写真、図面、スケッチ、水彩、作品、ポスター、書籍・雑誌、染織資料、模型、楽器など多岐にわたる。

これまで取材してきたアーカイブ機関の多くは、資料整理から公開まで、すべての業務を数人の担当者で回しているため、慢性的な人材不足が生じ、遅々とした歩みでしか作業が進まないという問題を抱えていた。しかしAACでは、資料体ごとに大学内で研究プロジェクトが結成され、基本的には各チームが調査研究の一貫として整理や目録作成を行う。一方、AACは収蔵資料の管理保管とともに、資料を使用可能にするための法的整備のプロセスを支援し、各プロジェクトの動きを集約しながら学内外へ情報を発信する役割を担っている。こうした体制により、受け入れた資料を死蔵にせず、即座に生きたアーカイブとしての価値を発揮させることを目指しているのだ。
資料は、研究プロジェクトが機能していることを前提に受け入れることを基本とし、その研究成果をAACがウェブサイトやシンポジウム等で定期的に公開することで、新たな創作活動につなげ、その記録がまた蓄積される。こうした好循環を生み出す仕組みをAACはつくろうとしているのである。
そこで今回は、設立から2年が経過した現在の進捗状況や、コロナ禍も含め新たに浮上した問題点、別途取材を行った佐藤晃一のポスターアーカイブなどについて話を伺った。

 

 

多摩美術大学アートアーカイヴセンター 作品

Interview

インタビュー

大学は脈々と人が続いていく
アーカイブ活動が一時中断したとしても
保存していれば、いずれ誰かが研究を始める

アーカイブの収蔵方針と契約について

 先日、佐藤晃一さんのアーカイブについて取材をした折に、多摩美にAACというアーカイブ機関が2018年に創設され、そちらに資料を寄贈されたという話を伺いました。そこで今回は、AACの運営方法やデジタルアーカイブ化への取り組み、今後の展望について伺いたいと思います。まず、こちらで受け入れられる資料は、どのように選定されているのですか。

 

田川 まず、運営委員会ではかって、それを理事会にかけて最終決定するというのが現在のフローになります。収蔵方針については、AACが開設された2018年から運営委員会で話し合いを続けているところです。長期的に多摩美で研究を行っていくものは、寄贈契約を結んで資料を保管する体制をとっていますが、資料づくりや目録づくりを終えた段階で、すべてのものをそのまま保管するのか、研究を引き継ぐ人がいなくなったときはどうするのかなど、細かい方針はまだ定まっていません。

 

 収集する資料は、多摩美にゆかりのある人に限定されているのですか。

 

田川 多摩美に関係している方がほとんどですが、北園克衛のように、収蔵当時の研究と結びついて購入に至った資料も過去にはあるので、一概には言えません。

 

米山 保管スペースの問題もありますので、多摩美に直接関係があるといっても無尽蔵に受け入れることはできません。それが学生のためにどう活用されるか、教授陣の研究とどう結びついているかといった見出しが立っていないと難しいですね。

 

 国内外への資料の貸し出しを行う際は、こちらが窓口を担当することになるのですか。

 

田川 AACが窓口となって、研究会の方々に全面的に実施していただいたり、事務処理や作品の検品など全般を事務室が受けもったりするなど、資料代表者の先生の方針によってケースバイケースです。

 

加藤 佐藤先生のアーカイブの場合は、まだ整理が終わっていないので、外部には公開しないことになっています。すでに、中国などの先生の教え子から展覧会を開きたいという話がきているので、貸し出しの方針をきちんと考えていかないといけないと思っています。

 

 アーカイブの受け入れに関する契約は、どのようにされていますか。

 

田川 資料によりけりです。所有者や著作権者の方から寄贈目録ができてから契約をと言われるケースもあれば、目録も不要と言われる場合もあります。もちろん、目録に求められる精度も異なるので、20年間多摩美にあっても契約が終わらないこともあります。
AACが立ち上がってからは、基本的に契約ありきで話を進めています。現在の契約内容は、美術館の寄贈契約と似た標準的なものですが、AACとしてどのような契約を結んだほうがいいのかということを、今年から運営委員会と弁護士を交えて話し合っています。

 

 

 

資料体ごとに研究団体を設置

 

 こちらには、佐藤晃一さん以外にもいろいろな人のアーカイブがありますが、それぞれに研究会が設けられているのですか。

 

田川 研究団体があることが受け入れの前提になっています。ただ、20年以上前に購入した瀧口修造や北園克衛の資料などのように、いまの組織の方針以前に寄贈を受けたものや、担当の先生が退職されている場合などは、研究団体が付いておらず、暫定的にAAC預かりとなっているものもあります。

 

 AACというマネジメントをする部門があって、それぞれの研究会が自主的にアーカイブ化していくという体制はすばらしいですね。

 

加藤 自主性でやっているのが多摩美のいいところだと思います。ただ、それが縦割りになっていて、このAACがハブになって一つひとつの独立部隊が動いていくというかたちなので、僕らもほかの研究のことはよく知らないんです。

 

米山 AACとしても、それぞれのプロジェクトと情報共有できていない部分もあるので、ヒアリングをしながら改善していこうとしているところです。

 

田川 2019年度に行ったヒアリングでは、資料体によっては先生方の負担が大きいこともわかったので、AACで契約のための事前準備や事務作業などを共同できればと考えています。また、現在動いている研究団体の最新の状況報告の場として、シンポジウムを年1回開催して、その講演内容をまとめた『軌跡』という紀要を作成しています。今後は、それぞれの研究会や資料体がどのような活動をAAC以前に行ってきたのかも、年度ごとに少しずつ掲載していけたらいいなと思っているところです。

 

 次回のシンポジウムは、いつ開催される予定ですか。

 

米山 2020年12月5日です。2021年は12月4日でオンライン開催の予定で準備しています。

 

 ぜひ、参加させていただきたいと思います。今後は、他の大学のアーカイブ組織と連携した取り組みなども行われる予定ですか。

 

田川 今は、まだ本格的な連携はとれていませんが、AACのアドバイザリーボードのひとりとして慶應義塾大学アート・センターの渡部葉子先生に参加していただき、運営に関するコメントをいただいています。また2022年3月には、同センターの久保仁志さんと共同企画で瀧口修造文庫展をアートテークギャラリーで開催予定です。

 

 

 

佐藤晃一研究会の活動

 

収蔵品はポスターをメインに書籍や中間資料も

 佐藤晃一さんのアーカイブがこちらに寄贈された経緯や、収蔵品の内容についてお聞かせください。

 

加藤 佐藤先生は、もともと多摩美で教鞭をとられていて、退任されて1年ほどでお亡くなりになってしまったのですが、生前から寄贈の話はあったようです。

 

村松 具体的には動いていないけれども、立ち話的にはしていたと聞いていますね。

 

加藤 実際に寄贈されることが決まってからは、奥さんの指示のもと村松さんに主導していただいて作品の整理をしていったという流れです。そして同時に、当校の共同研究の一つとして、佐藤晃一共同研究会を立ち上げて、具体的に作品を研究していくことになりました。まだ、本格的な研究は始まっていませんが、資料整理と作品のデジタルアーカイブ化を進めています。

 

 どのようなアイテムが収蔵されているのですか。

 

加藤 メインはポスターで、書籍関係の仕事や、学生の講義に使ったスライド、お皿や傘などのグッズも少し入っています。ほかには、原画や版下、メモ、写真、ほかの作家のポスターも若干ありますね。

 

村松 それと、佐藤先生が幼少の頃に描いたポスターや風景画なども、一緒に納めさせていただきました。おそらくお母様が残してらしたのではないかと思うのですが、中学生ながら、亀倉さんの影響を受けたと思われる手描きのポスターなども入っています。

 

 研究会は、どのように活動されているのですか。

 

加藤 研究会の活動は、今年で2年目に入ったところで、服部一成先生をトップに、実働面での管理などを僕が担当しています。デジタルアーカイブ化に関する具体的な整備は村松さんの力をお借りして、撮影やリストの入力は佐藤先生の教え子だったグラフィックデザイン学科の卒業生などに頼んで進めているところです。ですから、作品1点ごとの研究や、それらの資料を学生たちに還元していくところまでは動けていません。また、1年目の成果を報告書にまとめようとしていたのですが、新型コロナウィルス感染症の影響で止まっている状態です。

 

デジタルアーカイブ化と展覧会に向けた構想

 デジタルアーカイブ化は、どのように進められているのですか。

 

加藤 収蔵庫のほうに簡単な撮影キットを用意し、作品をすべて再撮影してリスト化する作業を進めています。撮影をあらかた終えて、簡単なリストを作成していたのですが、それを目録にまとめようというときにコロナ禍になってしまったので、こちらもストップしてしまいました。
 今後の展望としては、デジタルアーカイブ化をすべて終えて、データをAACに集約したいということと、1〜2階のギャラリーで展覧会を開催したいと思っています。当初は、3年目をひと区切りにして展覧会を開催して次のステップへと進もうという計画を立てていたのですが、コロナ禍でスケジュールがずれ込むことを考えると、もう少し長期的に捉えて、この研究会だからこそできる切り口で開催したいね、と村松さんと話をしているところです。

 

 現段階で、どのような切り口をお考えですか。

 

加藤 まだ漠然とした構想ですが、作家論的な側面、技術的な側面など、多面的な切り口で文章にまとめたらどうかと考えています。佐藤先生は、多摩美の専任になられる前に東京藝術大学でも教鞭を執られているので、佐藤先生をベースにデザイン教育の流れについての考察をするというのもおもしろいかなと。大学での研究は、閉じた活動になりがちですが、定期的な展覧会やウェブサイトでの公開など、AACとして外向きのアプローチを行うことで、より多くの人の目に触れられるようにできればいいなと思っています。長期的な取り組みにはなりますが、せっかく寄贈していただいたものなので、金庫の中に入ったままのようなことは避けたいですね。

 

 収蔵品のリストは、どのように作成しているのですか。

 

加藤 美術館などのデータベースを参考にしているのですが、そのままでは当てはまらないものもあるので、村松さんにリストの構成やデザインを考えていただきながら、新たにつくり直しています。ひとつの作品でも、企業ロゴの有無などバージョン違いのものもあるので、それらを含めると結構な数になるんです。

 

村松 現段階のリストの構成は、作品名、制作年、サイズ、版式などのほか、備考欄をいくつか設けてクライアント名や会場名、共同制作者がいる場合などにも対応できるようにしています。

 

 デジタルデータ化する際、AACとしての標準フォーマットはあるのですか。

 

田川 ポスターに関しては、 AACのフォーマットというよりも、「竹尾ポスターコレクション」*の研究のためのフォーマットとしてつくられたものがあります。竹尾ポスターコレクションは、1998年に紙の専門商社の竹尾から寄託されたもので、それ以来、竹尾と多摩美で共同研究が続けられています。その成果のひとつとしてデジタルアーカイブを公開するために、グラフィックデザイン学科の佐賀一郎先生が中心となってつくられたフォーマットです。2020年度からは多摩美術大学美術館と本学大学院とAACの共同データベースの構築も始めました。ただ、資料の傾向はバラバラなので、大枠をマニュアル化する予定です。

 

竹尾ポスターコレクション
竹尾が1997年に購入したニューヨークのラインホールド・ブラウン・ギャラリーのポスターコレクション約3200点。
1998年に多摩美に寄託され、両者により共同研究が進められている。その一部は、定期的に展覧会で公開されている。

 

 

多摩美術大学アートアーカイヴセンター 多摩美術大学アートアーカイヴセンター

佐藤晃一アーカイブの収蔵品と撮影を行う作業スペース

 

 

多摩美術大学アートアーカイヴセンター

多摩美と竹尾の共同研究の成果としてつくられたデジタル・アーカイブ「竹尾ポスターコレクション・データベース」

 

 

 

 

寄贈する側に求められる整理とは?

 

 アーカイブを寄贈する側が事前にどのような整理をしていると受け入れやすいですか。

 

田川 ざっくりとでも構わないので、どのようなものがどれくらいの点数あるのか、何年から何年までの資料が保存されているのか、事務所や個人で権利を集約しているかいないか、といったことがわかっているとひじょうに助かります。

 

米山 こちらにものを移動したとき、その解釈に誤解がないように、最低限でもどんなものを何点移したのかがわかるリストは必要ですね。

 

加藤 佐藤先生の場合も、村松さんがいなければできませんでした。AACのメンバーが充実して、専門家が増えるといいですよね。

 

 多摩美ではアーキビストの育成はされているのですか。

 

田川 AACでは多様な媒体に対応できるようなアーキビストの育成が必要だと考えていて、大学院でのアーキビスト育成は中期目標のひとつです。

 

 

今後のデジタルアーカイブについて

 

 デジタルアーカイブは、データの破損や古いメディアの読み込みができないケースなど、管理の難しさの問題を抱えているという話をよく聞きます。また、インスタレーション作品やウェブデザインなど、紙ものとは違う作品が増えるなか、今後のデジタル作品の残し方は、どのようになっていくと思われますか。

 

加藤 ウェブデザインに関しては、映像に残すというやり方でアーカイブされている方が多いのではないかと思います。動く環境のまま残すのは、ハードとソフトウェアごと残さないといけないので、現実的には難しいですよね。

 

田川 2015年に急逝された三上晴子先生(メディア芸術コース教授)のアーカイブを収蔵しているのですが、その生前のデジタルメディアを使ったメディアアート作品の修復と再展示に関する共同研究が進められています。三上先生をはじめとして、インタラクティブなメディア・アートでは、作品を成立させるために、多様なソフトウェアとデバイスが使われています。それらもウェブデザインと同じく開発時の環境ごと残すことは難しいということを前提にして、作者の死後、その作品の核をどう抽出するべきか、どう再現するべきかを、どう考えたらよいのか、という研究が行われています。
三上研究では、対象を徹底的に研究して、三上先生との共同制作者たちが作品の翻案を厭わず、どう変更を加えたのか、またその理由を一つひとつ明らかにすることで、もう一度作品が動き出すことができました。映像で残すことは一つの解ですよね。デザインもアートも領域によっては同じ開発環境で制作されています。AACは相互のアーカイヴの成果の架け橋にもなれたらと思います。

 

 グラフィックの場合はどうでしょう。データが上書きされてしまうので、紙ベースだった頃に比べて中間資料が残りにくくならないでしょうか。

 

加藤 印刷物である限りは、昔も今も目指すところは同じところなので、制作のプロセスについては、説得性をもたせるためにデジタルでも検討は残していると思いますよ。たしかに、今の若者はデジタルのイメージが強いので、印刷技術や紙の質感といった物質的な感覚に興味が向いてないとは感じます。ただ、データだけではわからなかったことも、アナログと比較することで気づいていきますし、最近は、アナログとデジタルをうまく融合させてつくる動きも増えているので、残すべきものは残されると思いますね。

 

 

アーカイブが大学の価値を高める

 

 大学にアーカイブ機関を設けるメリットとは、どんなことだと思われますか。

 

加藤 大学は脈々と人が続いていくので、研究担当者の退任などで活動が中断したとしても、きちんと保管さえしておけば、いずれ誰かしらが研究を始めることになるという点がメリットだと思います。

 

田川 勝見勝先生の資料も、2019年度の王小楓さんの博論をはじめとして、ここ数年で活発に動き始めています。

 

 勝見勝さんの資料は、どのようなものが入っているのですか。

 

田川 もっとも多いのは洋書を中心とした書籍です。ほかは、コレクションされていた地図やポスター、紙資料、旅行先で撮られた写真や、DMなど、紙ものがメインですね。立体は、先生の書斎にあった家具などです。

 

米山 AACができたことによって動きが活発化したという部分もあります。大学にアーカイブされるということは、作家個人の記録としてだけでなく、彼らの教え子が社会に与えた影響や、大学史や美術教育の歴史など、アーカイブによってさまざまなつながりが見えてきます。それが多摩美という大学の価値を上げることにもつながる。そのためには、いろいろな聞き取りをしなければいけないと思っていたので、PLATのサイトはとても参考になりました。

 

 そう言っていただけるとうれしいです。今回のお話で、さまざまな人材を擁する大学だからこそできるアーカイビングやその活用の仕方があるのだとわかりました。12月のシンポジウムも楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

第3回 多摩美術大学アートアーカイヴシンポジウム
「メディウムとしてのアートアーカイヴ」 を受講して

 

2020年12月5日、AACが主催する第3回目のシンポジウムがオンライン開催され、美術大学におけるアートアーカイヴの活用のあり方をテーマに、コロナ禍におけるオンラインアーカイブの教育利用や、AACが開発を進める統合データベースの設計と運用についての報告と議論が行われた。
PLATとして注目したのは、AACに新たに寄贈された和田誠のアーカイブに関する報告である。イラストレーター、エッセイスト、装丁家、映画監督など多彩において非凡の才能を発揮した和田のアーカイブは、物質的な量だけでなく幅広さの面においても膨大だ。和田誠事務所ではそうした数々の仕事を、ファイルメーカーを使って分類し管理していたという。2020年3月に契約を交わし、今まさに整理が進められているところだが、全貌が把握できた段階で、ぜひ改めて話を伺いたいと思う。

もう一つ、印象深かったのは、「アーカイブ」という言葉が多義的に解釈されることについて、複数のコメンテーターから寄せられた発言だ。実際PLATのアーカイブ調査でも、「特定の作家や組織から出てきた資料群を、その構造を活かしたまま保存公開する」というアーカイブ学的な定義と、作品データベース(デジタルアーカイブ)について曖昧に解釈していた時期があり、その二つをひとまとめに「アーカイブ」と称することは、データベースの構築に支障をきたしかねない。われわれの調査では、寄贈先が受け入れやすいように、デザイナー側ができるよいデータ管理方法を模索している。1点もののアートと違い、複製品であるデザイン作品は、完成品に至るまでの中間資料が重要であることを考えると、前者の「資料群としての構造を活かした」という部分が見えるかたちでのデータづくりが必要となる。そのことを意識しなければいけないのだと改めて実感した。

ほかにも興味深い報告を臨場感たっぷりに聞かせていただき、アーカイブの奥深さを痛感した。詳しい内容は年度末に発刊される紀要『軌跡』にまとめられる予定なので、改めてじっくり拝見したいと思う。

 

 

第3回 多摩美術大学アートアーカイヴシンポジウム 開催概要

 

日時:2020年12月5日(土)10:00〜17:00(オンライン開催)
主催:多摩美術大学アートアーカイヴセンター
協力:多摩美術大学メディアネットワーク推進委員会

 

 

【プログラム】

 

第1部 アートアーカイヴの現状
小泉俊己+光田由里:写真という軽やかな根拠 マン・レイとその周辺
久保田晃弘:インタラクションの分析
佐賀一郎+塚田優:和田誠アーカイヴ寄贈の報告とその可能性
司会:安藤礼二

 

第2部 アートアーカイヴと遠隔教育
石山星亜良:三上晴子アーカイヴから立ち上がる講義資料
深津裕子:文様アーカイヴとアート&デザイン教育
コメンテーター:加治屋健司、関口敦仁、赤塚祐二
司会:久保田晃弘

 

第3部 アーカイヴ/コレクションのためのデータベース
堀口淳史、淵田雄、木下京子:美術館とアーカイヴセンターを横断するデータベース構築に向けて
平出隆:最終講義゠展《Air Language program》について
コメンテーター:川口雅子、谷口英理、渡部葉子
司会:佐賀一郎

 

クロージング シンポジウムの総括とアートアーカイヴセンターの未来
久保田晃弘、建畠晢、永原康史、平出隆

 

 

 

 

 

◎多摩美術大学アートアーカイヴセンター

問い合わせ先

 

〒192-0394 東京都八王子市鑓水2-1723
多摩美術大学アートテーク4F
(窓口受付)火曜日・木曜日13:00〜16:00
E-mail:aac@tamabi.ac.jp